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フィマニトゥルアの秘密の温泉

フィマニトゥルアの秘密の温泉

以前の冒険で通過した地点「フィマニトゥルア」で温泉に入りました。
極寒の連峰を越え凍え付いた身体を温めてくれる「逆オアシス」のような場所でした。
当時は何も思わなかったのですが、思い返してみるととても不思議な出来事を体験していました。
数日前に再び近くを訪れる機会があったため、現地民の方々に少しお話を伺ってきました。


豪雪の冒険:回想

フィマニトゥルアの連峰の中の、もっとも寒さと険しさが厳しい一帯の洞窟から、その温泉には向かうことができます。あまりに難易度の高いエリアのため、周辺一帯は手慣れた冒険者が10名以上でパーティを組んでいなければ立ち入ってはいけない決まりになっています。
そのとき私たちのグループの人数は11名。麓の宿で同じ方向を目指す7名のグループを加えて総勢18名で行動をとっていました。(この別グループは元々異なるルートでの氷山突破を計画していたが、一晩ロッジで談話することで意気投合)
吹き荒れる吹雪が陽の光を遮るものの、あまりの寒さ故にエフィルさえ寄り付かないとさえいわれる別名「呼吸のしない峠」を越えて、いよいよ温泉の入り口である洞窟「泉竜の蝦蟇口」に辿り着きます。2日間フルで歩き続けても、名の通りエフィルは一切現れること無く、洞窟の入り口もまさに竜の口を空けた様にそっくりです。
そして凍えた身体を温めようと温泉へ向かうと、先客がいました。
温泉は洞窟の奥の天井が開けた吹雪の入り込む地点にあるため、下からは湯気、上からは雪がとめどなく吹き荒れて視界はほぼ真っ白になります。
うっすらとシルエットと声が聞こえたので誰かがいることがわかる程度で、実際にどんな方だったのかはよくわかりません。なにか私に話しかけてくださっている様子もうかがえましたが、いかんせん轟音が鳴るうえに一緒に来た仲間達が騒ぐもので会話は成り立ちませんでした。
しばらくして私たちは温泉をあとにしました。先にいらっしゃった方々はまだ温泉にいたようです。


さて、ここでひとつこの温泉の注意事項を書いておかなければなりません。
この温泉は山の内側に眠る溶岩と「炎の心臓」とよばれる鉱石の巨大な塊によって、地下水と雪とが温められて出来上がっているものなのですが、故に長い時間つかることは危険です。溶岩(火山)から生じる硫黄と、炎の心臓からしみでる粒子は混ざり合うことで体温を高める効能を持っていますが、過剰に身体がこれを取り込んでしまうと「炎舞病」を煩ってしまうためです。
この温泉では連続して30分以上の入浴は禁止されており、洞窟内にも2時間を越えていることを避けるように言われています。


私たちはてきぱきと温泉へ入り、20分程度で入浴を終えて、その後数十分後に揃って出発しています。
その間「先客」は温泉内から一切出てくる気配はありませんでした。とはいっても炎舞病の症状もまったく無かったと思います。
そして、その先客は、おそらくひとりであの温泉につかっていました。



豪雪の冒険:再来

後日私がフィマニトゥルアを訪ねたのは、この点が気がかりになっていたことと、炎の心臓にまつわる伝説のいくつかを調査する目的がありました。
山への立ち入りを管理している麓のロッジでこの話をしたところ、私たちが遭遇していたのは山の主、あるいはエフィルのどちらかであるだろうとのことでした。


山の主はフィマニトゥルアの周辺では神聖視された存在で、雪崩や火山の噴火を鎮めてくれる心優しい方なのだそうです。たびたび自身の自慢の温泉に入浴することで、思考を巡らせたり、身体の傷を癒しているのだとか。
一方エフィルの件ですが、温泉に前述の神獣が入浴したあとは、神獣の魔力のようなものでお湯が清められて、闘争心や憎悪、欲望といった「主」が嫌うものを鎮める効能がつくのだそうです。これによってエフィルは攻撃性を押さえられて、ただその場の温泉を満喫する無害の存在になっているだろう、とのことでした。


出会っていたのが山の主であれば非常にラッキー、エフィルであれば温泉で出会っていたことがラッキー。
どちらにしろ山の主は勇気を持って踏み入れる正しき者には寛大でひどいことはしないのだ、とのことでした。


今回の一件で、エフィルに対する見解が少々変わりました。
原住民の方がおっしゃることが事実であるならば、エフィルの攻撃性はライフに対するなんらかの憎悪が起因しているということになりますからね・・・。しかしこちらの件はカテゴリ違いですので、これはまた別の機会に。