Atradium

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永眠れるものが目を覚ます?

地の底へと続く境界

西の海のずっと先の辺境の島に誰が建てたかもわからない、広大な墓地があるのはご存知だろうか。
一部の冒険者はこの地のことを「グレイブゲート」と呼んでいる。こちらなら聞き覚えがあるヒトもいるかもしれない。
「燻る風薫るヴィオレーター」ことワタシ、墓暴きのディマ=エンゼルセンがこの地で目撃したこと。
それは、石の下で眠りについていたはずの伝説の英雄「ロマンス=アルベルト=クーディッヒ4世」の復活だった。


歴史に名を刻んだ英雄の遺品を頂戴しようと、風の噂をたどること早数年。
ようやく掴んだ有益な情報。彼の墓はグレイブヤード、黄泉の国へもっとも近いエフィルの楽園と噂される大地にあるということだった。
高いプレミアをもつ強力なアイテムだけに過酷な試練だと覚悟を決めて、ワタシは海を渡った。


噂に聞く通りの島だった。

楕円形の島は内陸に寄れば寄るほど深い谷になっている、まさに奈落。
その中心から放射状に伸びた通路を埋め尽くさんばかりに整然と並ぶ墓石の数々。
気候は悪く見通しが利かない、まさにエフィルの楽園そのもの。
知らない名から著名な名まで、何故この地に墓があるのかは不明だが、あらゆるライフの墓がその場にはあった。
ロマンスの墓は島のかなり深い層まで潜ってようやく見つけ出すことができた。幸い誰にも手を付けられた形跡もなかった。
ワタシは早々に仕事に取りかかる。


重い大きな石をどかしたその時だった。

ようやくご対面した遺骨。そいつが突然起き上がり、両腕を空に掲げた。
するとたちまち分厚い雲の隙間から陽の光が伸びてきて骨を包み込んだ。
光に照らされた骨はまるで磁石になったように周囲の土を引き寄せ始めて、みるみるうちに肖像の絵画で見るロマンスそのものになっていった。
最後にワタシのほうを振り向くと「蘇生を妨げる最後の鍵を解き放ってくれた、キミに感謝する。いずれまたどこかで巡り会おう!」
彼が生前に残した迷言(名言)、それをそっくりそのまま言い残し、上空から飛来したグリフォンに飛び乗って分厚い雲の向こうに消えていった。


ワタシの目の前に残ったのは、主を失い空になった墓石。
その石も降り始めた雨が触れた途端に音を立てて崩れてしまった。



そのときはただただ不気味で背筋が凍り付いてしまったのでまっすぐ引き返してきてしまったが、
今になって思う。他の墓も暴いたら同じ現象が起こりうるのだろうか?
まぁワタシにはもう通り名ほどの勇気も度胸も残されていないから試しようが無いのだがね。