Atradium

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リリック狂想を経た新言語

音楽鑑賞を生業とする一部のマニアの中には、
『歌詞という「言葉」が曲中に存在することで意識がそこに向いてしまい、音の細部まで受け入れるのを困難にしている』
と主張する者もいる。
同士たちは互いに意見を交換し合い、ひとつの結論を出した。


『歌詞を知らない言語で歌えば、それは「声」という「音」にしか捉えられない』


しかし多くの音楽家たちはこれに反論した。
『表現したい動き・世界・物語が伝えられる術をけなされるのは遺憾だ』

この言い争いは長らく続き、業界では「リリック狂想」と称されている。

リリック狂想は、この最中に誕生した稀代な舞台演出家『モーツラルティア=バーバ=トベーヴェン』の提案により収束へ向かった。
名言として各地に広まった彼の言葉は訛がひどかったため、どれとして正確には伝わらなかったが、幸い内容はあまり変わらなかった。
『奏でる者も、聴き感じる者も、どちらか一方のみでは成立しないのだから、お互いが納得できる方法を開発しなければならない。
あなたがたは互いを非難する罵声という汚い音をその身に刻み付けるために音楽とともに生きてきたのかね。
奏者の諸君、いまの君たちには伝える思いなど残っていない、あるのは相手を憎む心のみ。
聞き手の諸君、君たちは怒りの旋律を心地よいと言って聞き続けられるほど腐った耳をお持ちかね。
私ならこうしよう、声も歌も歌詞もコーラスも、すべてを楽器のひとつにする奏法、それを皆とともに作りたい』

そして誕生したのが、歌声を音として届けるための言語「ヴェアリ」である。
【VEALY】Vocal Echo Active LYric(諸説ある)

ヴェアリの特徴を上記の復習もかねておさらいしよう。
・リスニングの際、歌詞に気をひかれてしまうことを防止するため開発された歌唱専用言語
・「声」よりも「音」として認識(錯覚)させるような発音・発声
・ボイスパーカッションや環境音にみたてたノイズを発する発音技術も用意されている
・事前に用意された暗号鍵を元に復号化することで、歌詞を導き出すことができる(鍵さえあれば計算は非常に容易)
・多重合唱にも対応(複数のパートにわけても美しい音に聞こえる)

もちろん、有効な手法としてこれを受け入れて利用する楽団もあれば、なお批判する楽団もある。
聞き手も然り。